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山尾建築設計事務所
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B 09新しい造成地の地盤について
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新しい造成地の地盤について

新しい造成地の地盤はあまり良くない─と言う事は一般的に良く言われている事ですが、なぜ良くないのかと言う理由と、そこに建物(2階建て程度の一戸建て住宅建築を想定)を建てる場合の対処方法の基本的な考え方を解説します。

一口に「造成地」と言っても、数十年前と現在とでは状況が違い、現在ではもともと平坦だった土地の開発が少なくなっており、現在の宅地開発は山や傾斜地を開発する事が多くなっっています。 もともと平坦な土地の開発なら既存地盤の掘返しが少なく、比較的安定した地山(固く締まった元の地盤)の上に建物を建てる事が可能ですが、傾斜地を切り崩す造成工事では、盛土や土の埋戻しを大規模に行う必要があり、造成によって掘り返され不安定になった地盤の上に建物を建てる事になってしまうため、建物完成後の地盤沈下や、地震の際の地盤の液状化現象(砂質土の場合)が大いに懸念されます。

このサイトではあちらこちらで触れていますが、盛土や埋戻しを行なった地盤は、いくら人為的に押し固めても元の地盤強度に復活する事はありません。 時間をかけて地盤が安定するのを待つしかありませんが、木造2階建て程度の重さの建物が載っても問題のない程度まで地盤が安定(地盤強度の回復)するには、数年〜数十年もの歳月が必要です。 おおむね1mを超える深さの盛土や埋戻し土が粘土質の場合、建物の自重で押される形で埋め戻された土の中の水分が抜け、土の体積が減る事による「圧密沈下(あつみつちんか)」が起こる可能性が非常に高く、また砂質土系の土を使っている場合は、地震の際の地盤の液状化現象が心配です。

→ <注意事項>を必ずお読みください 
 

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1:この図は敷地の断面図の一例です。 このような傾斜地に新しく宅地を造成する場合を例にとって解説します。 実際には敷地の傾斜の角度はいろいろあると思いますが、このような傾斜地や山の一部を切り崩す形の造成工事が現在多くなっています。 元は雑木林である事が多いでしょう。 地山(元々の地盤)の地層は一般的に、表土付近は新しい地層なので比較的柔らかく、深いほど古い地層であるため押し固められて固い傾向があります。 ここでいう固い地層とは「岩盤」を意味するものではありません。 関東近辺の場合、非常に固い岩盤は地下数百m〜数千mも下にあります。 太古に岩盤の上に主に火山灰等が降り積もってできた厚い地層、「関東ローム層」と言われている柔らかい地盤が関東平野を覆っています。
 
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2:新しく造成を行なう場合、造成を行なう業者は、なるべく元の地形に合わせて宅地や道路の高さを計画します。 このような造成工事を行なう際には「宅地造成等規制法」という法律に則って計画が行なわれます。 この法規や工事コストの関係で、工事の際に発生する「盛土(土を足す部分 = 図中で黄色く示した部分」と「切り土(地山を削り取る部分 = 図中でピンク色で示した部分」の土の量は、ほぼ同じになるように計画します。

道路や宅地部分はほぼ水平にしたいため、「盛土」と「切り土」を両方行う事になりますが、盛土が多く必要になって土が足らなくなれば他から土を買って来なければならずコストがかかります。 また逆に、切り土が多くなって土が余れば他へ捨てに行かなければなりませんが、現在土を捨てるための費用もどんどん高くなっており、受け入れてくれる場所(処分場)も少ないために法的な規制が非常に厳しくなっており、あまり多くの残土(残った土)は発生させたくありません。 「盛土」に必要な土の量と、「切り土」に必要な土の量はほぼ同じ、あるいはそれになるべく近づける設計をしなければなりません。

隣地との高低差が大きければ大きいほど、この盛土と切り土の量が増え、バランスをとる事が難しくなっていきます。
 

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3:宅地や道路の成形のために必要な「盛土」と「切り土」の他に、擁壁(ようへき)や道路下の下水管等を設置するために、一時的に掘り返す必要のある部分も出てきます。 道路と宅地の高低差がある場合、コンクリート製の階段や、コンクリート製の地下車庫(ボックスカルバート 等)の設置も合わせて行なう場合がありますが、これらも一部は土の掘り返しを行なって工事を行なう必要があります。 その他、元が雑木林だった場合、大きな樹木の根を撤去するために仕方なく掘り返してしまう箇所も出てくるはずです。

工事業者も工事コストの事を考えて、なるべく手を付けなくて済む部分は残そうとするはずですが、施工の都合によりどうしても一時的に掘り返さなければならない部分が出てくるわけです。 隣地との高低差が大きければ大きいほど擁壁の工事も大掛かりとなり、掘り返される土の量も増えていきます。

上の図では、擁壁はPC(プレキャスト・コンクリート)材の既製擁壁を想定した絵となっていますが、この他、間知石やコンクリートブロック積みの擁壁等があり、断面形状が違います。
 

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4:このように、一時的に掘り返して埋め戻した土の部分や、新しく盛った土(盛土)の部分が、かなりの範囲・深さで発生してしまいます。 隣地区画との高低差が大きいほど、最終的な盛土部分の体積が大きくなりますが、前述したように、盛土や埋戻しを行なった地盤は、いくら人為的に押し固めても元の地盤強度に復活する事はありません。 時間をかけて地盤が安定するのを待つしかありませんが、木造2階建て程度の重さの建物が載っても問題のない程度まで地盤が安定するには、数年〜数十年もの歳月が必要です。

しかも、部分的に地山(既存地盤)が残っていても、建物を支えるための十分な強度がもともとない地盤があります。 不安定な新しい埋戻し土や盛土、柔らかい地山や固い地山 等が混然となり、決して広くはない宅地の中に複雑な地盤を作り上げる事になってしまいます。 埋め戻し用の土は造成地内で発生した切り土を使用するのが基本だと思いますが、造成工事の際に大量に発生する土を現場内で仮置きできない場合は、一度余分な土を他に売って、埋戻し工事の段階では他から持って来た(場合によっては買って来た)土に砂を混ぜて使っているケースもあるようです。

いずれにしても、表面は平らできれいな地盤面に見える造成地でも、工事が終わった後では深い所で何がどうなっているのか良くわからなくなっています。

またこれは余談ですが、一部の悪質な業者の中には埋戻し用の土や砂の替わりに、他の現場で発生したコンクリートのガラ(破片等のいわゆる産業廃棄物)などを深い部分に埋めてしまい、コスト節約を計るという悪質なケースも一部にあるようです。 ガラ等は無造作に埋めると空隙が多く残ってしまうため、そこに余所から土が回り込んでしまい、その分だけ地盤が沈んでしまうと言うトラブルの原因ともなるので、よっぽど間抜けな造成業者しかやっていないとは思いますが。
 

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5:造成工事によって複雑な構成の地盤となってしまった宅地にそのまま建物を建てしまった場合、長い年月の間に何のトラブルもなく済めば良いのですが、実際にはトラブル発生が起こる可能性が高くなってしまいます。

1mを超える盛土は危険と既に書いていますが、建物下部の地盤全面が、例えば均一に2mの盛土と言う事なら、建物が沈むとしても水平を保ったまま沈んでくれる可能性があります。 しかし、現実には盛土の深さや固い地層までの深さが場所によって違ったり、土質が違ったり、また、建物の重量バランスが偏っていたり、とあまりに要素が複雑になっています。 このような地盤で建物が沈むとなると、建物は傾いた状態で沈んでしまいます。(不同沈下=ふどうちんか)

不同沈下が起こると建物の構造がゆがみ、サッシやドアが開け閉めしにくくなったり、基礎や壁に亀裂・ヒビが入ったりと言う不具合の原因になってしまいます。 そこまでひどくなくとも、精密な機械でないと測定できないような、6/1,000〜12/1,000程度のわずかな傾きでも人間は敏感に察知してしまい、気分が悪くなるので建物内に居られない、等と言う事も起こる可能性があります。

不同沈下の他、埋戻し土や既存地盤の一部が砂質土の場合、地震の際の地盤の液状化現象が懸念されます。 液状化現象が起こると地盤から水が吹き出し、建物は地盤に飲み込まれるように沈んでしまいます。

ちなみに上の図の建物は、木造2階建ての建物を想定しています。 基礎形状は「ベタ基礎」としていますが、地盤の状況やその他の要因によっては逆T字型の断面を持つ「布基礎」が良い場合もあります。 決してベタ基礎を推奨しているものではありません。
 

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6:最後に、新しい造成地に建物を建てる場合の対処方法ですが、特に隣地との高低差の大きい造成地ほど地盤の複雑さも大きくなっている事が容易に想像できるため、建物の重さを固い地盤に直接伝える手段、あるいは、基礎(建物)を支える地盤の補強、が必要となってきます。

おおむね3階建て以上の鉄骨造やRC(鉄筋コンクリート)造の建物はほとんどの場合、杭を基礎の下に設ける前提で構造設計を行ないます。 杭工事というのは大きく分けて2種類(支持杭・摩擦杭)ありますが、このうち実際に使われる事の多い「支持杭」は、建物の重さを直接固い地盤に伝え、建物が沈んだり傾いたりしないように用いる杭です。 支持杭の深さは基本的に、建物の重量と、それを受け止めるだけの強度を持った固い地層の深さで決まります(その他の要因もあります)。 その固い地層の深さが深いほど、杭工事にはお金がかかる事になります。

木造2階建て住宅規模の建物の場合、建物自体が他の構造体に比べて軽く杭工事までは必要がないと判断されるケースが多い事と、予算が限られていて杭工事に廻す予算が足りない事が多い等の理由から、よほどの事がない限りコストと工期のかかる杭工事は行ないません。

そこで、2階建て木造住宅規模の建物の場合で、杭工事までは必要ないが何らかの地盤の補強が欲しいという場合は、杭工事よりも簡易でコストが比較的安い「地盤改良工事」と言う工事を行ないます。 杭工事の考え方とは違い、基本的には「弱い地盤を補強する」というものです。 (固い地盤に直接建物の重さを伝える杭とは違い、「簡易」である所以) 地盤改良工事にはいろいろな種類があります。 盛土を含む軟弱地盤の深さが2m程度までと浅いケースなら、建物下部の全面の軟弱地盤にセメントを混ぜ、土を固くするという方法がありますが、施工深さが深くなると非常にコストがかかります。

堅い地盤(支持層)までの深さが3〜5m程度の場合は、円柱状に垂直のドリルで直径50cm〜60cm程度の穴を堅い地盤(支持層)まで掘り、掘り返した土にセメントを混ぜてまた戻して固まるのを待つ、という「柱状地盤改良(コラム工法)」という工法があります。 この工法は、盛土を含む軟弱地盤自体にもある程度の強度が要求されますが、木造2階建て程度の建物規模では比較的行なわれる事が多く、コストも比較的安い工法です。 柱状地盤改良(コラム工法)工事の様子は、このサイトの「工事写真」ページの「町田 Kt 邸」のページの中で詳しく解説していますので、興味ある方はどうぞ。

堅い地盤(支持層)までの深さが5〜6mを超える場合や、地下水位が高い場合、その他特殊なケースの場合、設計者の判断によりますが、他の地盤改良工事、あるいは杭工事を検討した方が良い場合があります。

いずれにしても、建物ができてしまえば埋まってしまって見に見えない部分のお金のかかる工事ですが、建物の安全を考慮する上ではどうしても必要な場合があります。

2006(H18)年07月19日掲載

<注意事項>

以上は、新しい造成地の地盤については十分気をつけて慎重にしてください、と言う事を書いています。 傾斜地の、一般的と思える断面形状の地盤を想定して参考図を描いていますが、造成地の地域・場所の違いや、同じ造成地内でも箇所により、実際の地盤の条件が千差万別に変化すると言う事にお気をつけ下さい。 造成工事の行なわれ方や、建物の規模・設計条件等の様々な要素により、地盤改良工事 あるいは 杭工事が必要/不必要の判断が違ってきます。 基礎の形状(ベタ基礎/布基礎)もしかりです。 これでやっておけば大丈夫と言う一般解を説明しているわけではありません。 また、何が何でも地盤改良工事や杭工事が必要だと言っているわけでもありません。 総合的に見て、設計条件その他により杭工事や地盤改良が必要ないと判断できる造成地もあります。 素人判断は不可能で、専門家の間でも意見が分かれるケースは多いのではないかと思います。 最終的には信頼できる専門家の判断を仰いで下さい。

このページを参考とされる方におかれましては、以上を留意していただきますようお願いいたします。

なお当事務所では、地盤に関する個別のケースについてのご相談は、設計・監理契約をいただいている顧客以外の方についてはお受けできません。 設計契約をいただいていない方から時々電話で相談を持ちかけられますが、無償サービスで地盤に関するアドバイスを行っているわけではありませんし、地盤調査の結果や現場の状況その他がわからない状況では、正確かつ責任が持てる判断はもともと不可能です。 そのような電話があまり多いようですと、このページについては閉鎖を検討しなければなりません。 何卒ご理解をよろしくお願いします。
 

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